循環器内科
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心不全の薬物治療
急性期治療方針
急性心不全の初期対応から急性期病態に応じた治療の基本方針
基本的治療方針
- 急性期治療は病態に応じた薬剤選択を行って、可及的速やかに臨床的うっ血を改善する。
- 急性心不全の病態は、肺水腫、全身的な体液貯留、低心拍出・低灌流の3つの病態に集約できる。
病態に応じた初期治療
- 酸素改善および肺動脈楔入圧低下には、硝酸薬が利尿薬よりも優れる。
投与の注意
- 急激な血圧低下は腎機能を悪化させるため、少量から開始し適宜増量を行う。
慢性期治療方針
- LVEFの低下した心不全(HFrEF)における慢性期の薬物治療の基本は、アンジオテシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)であり、すべての有症候性患者に推奨される。近年、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、イバブラジン(ifチャネル阻害薬)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の有効性が示されている。
- LVEFの保たれた心不全(HFpEF)に対して、死亡率や臨床イベントの発症率の低下効果予後が認められた薬物治療はない。
- ACE阻害薬、β遮断薬、 MRAはすべての有症候性患者に推奨される。これらの薬剤を基本として、利尿薬、イバブラジン(コララン(βブロッカー))、ARNIを症例に応じて検討する。
心不全は心臓のポンプ機能が障害された結果出現するため、心外膜、心筋、心内膜疾患、弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、不整脈などさまざまな要因により発症する。しかし、心不全の多くの症例に左室機能障害が関与し、左室機能によって評価法や治療が異なるため、左室駆出率(LVEF)による分類が多用されている。
LVEFによる心不全の分類
分類 | LVEFの低下した 心不全 (HFrEF) |
LVEFの保たれた 心不全 (HFpEF) |
LVEFが軽度低下した 心不全 (HFmrEF) |
LVEFが改善した 心不全 (HFrecEF) |
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LVEF | 40%未満 | 50%以上 | 40%以上50%未満 | 40%以上 |
内容 | 収縮不全が主体である | 境界型心不全であり、治療選択は個々の病態に応じて選択する | 拡張不全が主体であり、有効な治療が十分には確立していない | LVEFか40%未満から改善した患者群 |
HFrEFの薬物治療:総論
1.神経体液性因子阻害薬 |
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2.利尿薬 |
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3.抗不整脈薬 |
心室頻拍および心室細動などの重症心室不整脈による心臓突然死は、心不全における主要な死因であるが、アミオダロン(アンカロン)は、心不全患者における全死亡率および不整脈死を減少させることが報告されている。 |
4.血管拡張薬 |
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5.ジギタリス・経口強心薬 |
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6.ω-3脂肪酸・スタチン系薬剤 |
EPAとDHAの併用投与は、死亡あるいは心血管系入院を減少させる。心不全に対して投与を考慮してもよい。 |
7.抗凝固薬 |
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8.ナトリウム・グルコース共輸送体2 (SGLT2)阻害薬 |
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9.イバブラジン(lfチャネル阻害薬)(コララン) |
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10.アンジオテンシン受容体ネブリライシン阻害薬(ARNI)(エンレスト) |
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HFrEFの薬物治療:各論
治療の方針
- 左室駆出率(LVEF)の低下した心不全(HFrEF)においては、心拍出量や血圧低下に対する生体の代償機構により、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系や交感神経系が賦活化され、心負荷増大による悪循環を形成する。
- HFrEFにおける薬物治療の重要な目標は、神経体液性因子をコントロールすることによる左室リモデリングの抑制と予後改善である。
- アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬[忍容性のない症例ではアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)]およびβ遮断薬を導入し、忍容性のある限り十分に増量を行うとともに、LVEF 35%未満の有症状例にはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の併用を行う。
- 自覚症状や左室機能の改善を経時的に評価し、改善が不十分である症例においては新規薬剤[アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)への変更、イバプラジン、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬の追加]による治療強化を検討する。
- 体液貯留による症状の改善を目的に必要に応じて利尿薬を使用する。
- 十分な薬物治療、非薬物治療下においても心不全症状の改善が十分に得られない症例(治療抵抗性心不全)においてはQOL改善を目的とした経口強心薬の使用を考慮する。
薬物治療のエビテンス
ACE阻害薬 | HFrEFにおける生命予後および心血管イベントの抑制効果が確立されており、 無症候性左室収縮機能不全(ステージB)における予後改善も示されていることから、 心不全症状の有無にかかわらず左室収縮機能低下をきたした症例において投与が推奨される第1選択薬である。 |
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ARB | ACE阻害薬と同等の有効性が示されており、 ACE阻害薬に忍容性がない場合の代替薬として考慮する。 |
β遮断薬 | HFrEFにおける予後改善効果も確立されておりACE阻害薬とともにHFrEFにおいて初期に導入すべき薬剤である。 心筋梗塞後では無症候性左室収縮機能不全(ステージB)の段階から心不全発症予防のために投与が推奨されている。 心筋リモデリングの進行抑制のみならず、リバースリモデリングの効果も報告されており、 用量依存性が示されていることから忍容性がある限り増量する。 |
MRA | ACE阻害薬/ARBおよびβ遮断薬が投与されている幅広い重症度(NYHA II ~IV度)のHFrEF症例において、 上乗せにより予後がさらに改善することが示されており、 NYHA II度以上、LVEF 35%未満のHFrEF症例において併用が推奨される。 |
ARNI(エンレスト) | HFrEF(LVEF < 40%)を対象にしたPARADIGM-HF試験においてACE阻害薬(エナラプリル)と 比較し心血管死と心不全入院の複合エンドポイントの発生頻度を有意に低下させた。 |
イバブラジン (コララン) |
β遮断薬を含む標準的治療がなされているにもかかわらず心拍数が70回/分以上の高心拍数を呈するHFrEF(LVEF≦35%)を対象において、 プラセボに対して心血管死と心不全入院の複合エンドポイントの発生頻度を有意に低下させた。 |
SGLT2阻害薬 (フォーシーガ) |
HFrEF(LVEF≦40%)において糖尿病の有無にかかわらずプラセボに比べ、 心血管死と心不全による入院の複合エンドポイントの発生頻度を有意に低下させることが示された。 |
利尿薬、ジゴキシン、 経口強心薬 |
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治療薬の選択
初期標準的治療 |
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新しい心不全治療薬による治療強化 |
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症状改善のための治療 |
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運動耐容能の悪化や心不全入院を繰り返す症例においてはQOL改善を目標とした利尿薬の増量や経口強心薬の導入を行う。 |
重要
- HFrEFと診断した段階(ステージCの初期)からACE阻害薬(ARB)およびβ遮断薬(+MR A)による最大限の標準治療を確実に行うことが重要である。
- ACE阻害薬(ARB)、β遮断薬、MRAは可能な限り増量することが推奨されており、不十分な投与量での治療継続や安易な減量・中止は、治療効果が十分得られず予後を悪化させる可能性がある。
- 薬物治療強化による血圧低下や徐脈をどこまで許容するのか明確な基準はない。血圧や脈拍の測定値のみで判断せず、自覚症状や身体所見、腎機能などに異常を認めず、心不全が安定して代償されていれば慎重に経過をみながら維持、漸増を考慮する。
- ARNIやSGLT2阻害薬の効果はNYHA III、IV度の症例では低下することがサブグループ解析で示されており、予後改善を目指した薬物治療の強化は、NYHA III、IV度に進行する前(ステージDへ移行する前)の段階で検討することが望ましいと考える。
- HFrEFにおける薬物治療のエビデンスは、虚血性心疾患と拡張型心筋症を主な対象として確立されてきた。弁膜症性心疾患や先天性心疾患サルコイドーシスやアミロイドーシスなどの二次性心筋症における高用量のACE阻害薬(ARB)、β遮断薬のエビデンスは十分確立されておらず、個々の基礎疾患、病態に応じた至適用量を判断していく必要がある。
- 心不全病期の進行に伴い、有症候性の血圧低下などにより予後改善を目指した薬物治療(RAA系抑制薬やβ遮断薬)の減量、中止が必要となることもある。このような状況は、治療抵抗性心不全の段階(ステージD)を示唆する1つのサインである。薬剤の減量により血圧安定や心拍数増加による低心拍出症状の改善が一時的に得られたとしても、終末期を含めその後の病状の変化の備えを考慮する必要がある。
HFmrEFの薬物治療
収縮不全に対する薬物治療のエビデンスのほとんどはLVEF 35~40%未満を対象としている。
HFpEFの薬物治療
- 原疾患に対する基本的治療を中心に、心不全症状を軽減させることを目的とした負荷軽減療法、心不全増悪を引き起こす併存症(心房細動、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、肺高血圧症、糖尿病、慢性腎臓病、貧血、慢性閉塞性呼吸疾患、肥満など)に対する治療を行うことが基本である。
- 短時間作用型利尿剤(フロセミド)より長時間作用型利尿薬(アソセミド)のほうが予後改善効果、特に心不全の再増悪を抑制する効果が大きかった。
心不全における治療薬推奨クラス
HFrEFに対する推奨クラスごとの治療薬
推奨クラスI |
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推奨クラスIIa |
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推奨クラスIIb |
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推奨クラスIII |
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急性・慢性心不全診療ガイドライン
注意事項
- 無症候患者への経口強心薬の長期投与は避ける。
- 狭心症、高血圧を合併していない患者へのカルシウム拮抗薬投与はクラスIIIである。
- α遮断薬は心不全患者への投与は推奨されない。
具体的な投与の方法
- ステージCでNYHA心機能分類IIおよびⅢ度の場合、ACE阻害薬、β遮断薬、利尿薬を用いる。LVEF < 35%ではMRAを追加する。
- ACE阻害薬は高用量と低用量で、忍容性があれば増量を試みる。
- β遮断薬の効果には用量依存性があり、高用量投与で死亡率が低下することが示されている。β遮断薬の投与に際しては、体液貯留の徴候がなく患者の状態が安定していることを確認し、少量より数日~2週間ごとにカルベジロール(アーチスト)は20mg、ビソプロロール(メインテート)は5mgまで段階的に増量していくことが望ましい。
- イバブラジン(コララン)は洞調律かつ安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全患者が適応である。β遮断薬を含む標準的な治療を受けている患者において血圧が低くβ遮断薬の増量が難しく、心拍数が75回/分以上の場合、イバブラジンの導入が推奨される場合がある。
- サクビトリルバルサルタン(エンレスト)は血管浮腫の発生リスクがエナラプリルよりも高いため、ACE阻害薬からサクビトリルバルサルタンに変更する場合は、ACE阻害薬を少なくとも本剤投与開始36時間前に中止する。
港北メディカルクリニック 概要
- 院長
- 大澤 浩
- 標榜科目
- 内科、呼吸器内科、循環器内科、糖尿病内科、 消化器内科、アレルギー科、精神科
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